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H29-30年度 公募研究


メンバー

A01 細胞内在的な時間制御機構

  • エイドリアン ムーア(理化学研究所 脳科学総合研究センター・チームリーダー)
  • 佐藤 純(金沢大学 新学術創成研究機構・教授)
  • 鈴木 孝幸(名古屋大学大学院 農学研究科・准教授)
  • 高田 慎治(自然科学研究機構・生命創成探究センター・教授)
  • 堀川 一樹(徳島大学大学院 医歯薬学研究部・教授)
  • 松尾 勲(大阪母子医療センター・部長)
  • 松崎 文雄(理化学研究所 多細胞システム形成研究センター・チームリーダー)
  • 松田 充弘(理化学研究所 生命システム研究センター・研究員)
  • 渡邉 すみ子(東京大学 医科学研究所・教授)

A02 細胞と場の連携による制御

  • 上村 匡(京都大学 生命科学研究科・教授)
  • 生沼 泉(兵庫県立大学 生命理学科・教授)
  • 川口 綾乃(名古屋大学大学院 医学系研究科・准教授)
  • 眞田 佳門(東京大学大学院 理学系研究科・准教授)
  • 清木 誠(山口大学 医学系研究科・教授)
  • 田中 達英(奈良医科大学 医学部・講師)
  • 西村 隆史(理化学研究所 多細胞システム形成研究センター・チームリーダー)
  • 畠山 淳(熊本大学 発生医学研究所・助教)
  • 藤田 幸(大阪大学大学院 医学系研究科・准教授)
  • 別所 康全(奈良先端科学技術大学院大学・教授)
  • 三好 悟一(東京女子医科大学 医学部・助教)

A03 実験技術開発


研究概要

A01 細胞内在的な時間制御機構

写真Nuclear lamina targeting is a timing mechanism for dendrite outgrowth

エイドリアン ムーア(理化学研究所 脳科学総合研究センター・チームリーダー)

我々の神経は樹状突起を介して正確な情報伝達を行う。よって神経樹状突起のブランチングの多様性により、神経系はさまざまな外部シグナルに対応することが可能となる。神経発達時期において急激な神経突起進展が起きた後にゆるやかな神経成熟が起こることが明らかにされているが、この2段階の神経発達メカニズムが神経樹状突起のブランチングを制御することが知られている。神経成長期において本メカニズムは非常に重要な役割を果たしており、例えば、神経発達症において神経樹状突起のブランチングが阻害されることで知的障害を引き起こすことが報告されている。本プロジェクトでは、生体内のクロマチン構造を検証する新技術を用いて、クロマチンの構造変換がどのように神経突起進展から成熟までの間を巧みに制御する生体内時計として機能するかを明らかにしたい。

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写真「均一・ゴマシオ・振動」と変化するNotchダイナミクスの役割

佐藤 純(金沢大学 新学術創成研究機構・教授)

様々な動物の脳の発生過程において、神経上皮から神経幹細胞への分化はNotchシグナルによって制御される。Notchシグナルは隣り合う細胞間で側方抑制を引き起こし、分化細胞と未分化細胞がゴマシオ状に配置されたゴマシオパターンを形成する。しかし、最近ではNotchの側方抑制は遙かに多様な働きを示すことが分かって来た。哺乳類の大脳皮質においてはNotchシグナルの活性が振動し、神経幹細胞の多分化能の維持に寄与する。またハエ視覚中枢の発生過程において、Notchは均一に活性化し、ゴマシオパターンを形成せずに分化の波の伝播速度を制御することが我々の研究から明らかとなった。この時、Notchシグナルは側方抑制によってゴマシオを形成するメカニズムを保持しており、さらに振動を起こす仕組みを内包していることがこれまでの結果から示唆されている。従って、進化的に保存されたNotchによる側方抑制のメカニズムは状況に応じて均一、ゴマシオ、振動と変化し、多様な挙動を示すと考えられる。しかし、このようなダイナミクスの変化がどのような状況においてどのようにして生じるのか、またどのような役割を果たしているのかほとんど分かっていない。本研究ではハエ視覚中枢の発生過程において見られる分化の波に着目し、分子遺伝学・ライブイメージング・数理モデルを組み合わせることによって、1.Notchの様々なダイナミクスがどのような状況においてどのようにして生じるのか、また2. そのようなNotchのダイナミクスがどのような役割を果たしているかを解明する。

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写真特定の体節数で後肢形成が開始される機構の解明

鈴木 孝幸(名古屋大学大学院 農学研究科・准教授)

脊椎動物において、体の前後軸パターンは発生中に将来の脊椎骨となる体節が分節により周期的に頭側から1つずつ形成されることで形として現れる。私たちの手足の原器である肢芽は、体の前後軸に沿って種に固有な特定の体節レベルの側板中胚葉に正確に形成される。このため、これまで肢芽の発生する場所は体節の発生と何らかの関係がある可能性が強く示唆されてきたが、両者の直接的な関係性は不明であった。近年我々は、体節の原器である中軸中胚葉の後端に発現するTGF-スーパーファミリーの分泌因子であるGDF11が、隣接する側板中胚葉に直接作用し、下流で後肢形成に必須な遺伝子の発現を誘導しながら種に固有の体節レベルに後肢を誘導することを発見した。興味深い事に後肢の位置が体の後側にある動物(エミューやシマヘビなど)ほどGdf11の発現開始タイミングが遅く、さらに発現開始タイミングは様々な種において1体節刻みで厳密にコントロールされていることが判明した。そこで本研究では、1体節数の違いでGdf11の発現を正確にコントロールしている分子メカニズムを明らかにすることで、体節数による後肢形成のタイミングの認識機構を解明することを目指す。

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写真シグナルによる発生時計の制御とその意義

高田 慎治(自然科学研究機構・生命創成探究センター・教授)

生物には様々な周期の計時システム(分子時計)が内在している。例えば神経前駆細胞を含む複数の未分化細胞においては、Notchシグナルやそのエフェクターである転写抑制因子Hairyの発現が振動していることが発見されており、細胞の未分化性と遺伝子発現振動の維持との関連が明らかにされつつある。本研究では、 遺伝子発現振動に代表される分子時計を、多細胞生物という文脈の中で理解するために、細胞間シグナルと分子時計との連携を理解することを目指す。具体的には、分子時計と細胞外シグナルであるFGFとの連携を軸に、分子時計が停止する意義とそのしくみを明らかにすること、および新たな時間周期形成機構を解明することを目的に、体節分節形成と咽頭嚢分節形成に注目する。

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写真パルス回数を時間情報に変換する機構の解明

堀川 一樹(徳島大学大学院 医歯薬学研究部・教授)

細胞分裂や概日リズムなど様々な生物リズムについて、振動体の同定と発振機構についての理解が大きく進むとともに、リズムの制御下にある現象も数多く見出されてきた。振幅変調(AM)や周期変調(FM)をなど情報処理機構も明らかにされているが、同じく重要であるはずの発振回数に支配される生命現象についての理解はほとんど進んでいない。本研究では、単純な発生様式をもつ社会性アメーバのcAMP振動を材料に、化学信号の発振回数を情報処理する原理を解明する。また、発振回数を画像定量化する技術を開発することで、リズムの回数に支配される生命現象を解析するための基盤整備を行う。

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写真初期胚細胞の運命決定における転写を介した時間制御機構の解明

松尾 勲(大阪母子医療センター研究所・部長)

マウス着床前期において細胞運命は、特異的な核内転写因子が発現機能することで、栄養外胚葉、内部細胞塊、および原始内胚葉とよばれる3つの細胞系譜へと分離していく。このように形成される胚盤胞は、解析対象とする細胞数が32〜64細胞前後と極めて少ない点から、発生時間の進行に伴った細胞運命決定機構を解析する優れたモデルシステムである。BETファミリータンパク質(BET)は、ヒストンのアセチル化修飾を介して転写制御に関わることが知られているが、細胞運命決定における役割については十分に明らかにされていない。そこで、本研究では、BETの機能を特異的な化学試薬で阻害した場合に、変動する遺伝子を網羅的に特定する。更に、BETの機能阻害で個々の細胞における遺伝子座の転写活性化状態がどのような影響を受けているか解析したい。これらの解析を通じて、発生の時間的進行に沿った転写活性化(制御)にBETがどのような分子機構で働いているのか明らかにする。

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写真複雑脳形成における多様な幹細胞の特質の経時的変化の解析 

松崎 文雄(理化学研究所 多細胞システム形成研究センター・チームリーダー)

哺乳類の大脳皮質を特徴付ける見事な6層構造は、発生途上で順次生じた神経細胞により作り出され、複雑な機能を果たす神経回路の基本構造を構成する。この大脳皮質の層構造は、神経幹細胞のidentityを経時的に変化させる自律的なメカニズムと神経細胞を含む環境要因に依存し、さらに神経産生後のチューニングを経た末に形成される。他方、哺乳類の進化の過程で大脳は飛躍的な複雑化・巨大化をとげ、霊長類・肉食類などの脳回を持つ大脳(複雑脳)が出現する。このような複雑脳の発生過程では、げっ歯類等の単一幹細胞層の哺乳類の発生には見られない新たな神経幹細胞層(outer subventricular zone)が形成され、大脳皮質の巨大化、とりわけ、表層の神経層の発達に重要な役割を果している。しかしながら、この二つ以上に分離した幹細胞層を形作る神経幹細胞のidentityの時間的進行や、その関係性、さらに複数回分裂する中間幹細胞のidentifyの進行についてはほとんど何も理解されていない。本研究では、単純ながら複雑脳の特徴を持つフェレットをモデル系として、みずから開発した遺伝子操作技術を土台に、複数の幹細胞帯を形成する複雑脳の形成おける「時計と場」の特質を明らかにすることをめざす。

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写真体節時計をモデルとしたマウスとヒトの時間スケール種差を生み出す原理の解明

松田 充弘(理化学研究所 生命システム研究センター・研究員)

体節時計はマウス、ヒトともにHes7遺伝子の自己抑制回路による振動という同じ仕組みでできている。しかし、その振動周期はマウスが2時間でヒトが5時間と異なっている。この違いの原因は、Hes7遺伝子自体の違いによるものなのか、Hes7を取り巻く細胞内環境によるのかまったく明らかになっていない。本研究では、マウスES細胞、ヒトiPS細胞から体節時計をもつ未分節中胚葉様の細胞を誘導し、マウス・ヒト間の体節時計時間スケールの違いの原因を明らかにする。さらに体節時計をモデルとして、神経発生をはじめとした様々な発生現象の時間スケール種差にも同様の仕組みが存在するかを調べる。

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写真ヒト・マウスiPSを用いた網膜発生時間制御のヒストンメチル化による制御機構の解析

渡邉 すみ子(東京大学 医科学研究所・特任教授)

網膜は6種類に大別される神経細胞とミューラーグリアで構成され、発生の時間軸に従って、各細胞系列が逐次的に共通のプロジェニター細胞から分化をとげる。私たちは、特定の細胞系列の分化決定とその維持の分子機構に転写制御とさらにその上位の制御機構としてヒストンメチル化の役割を仮定し研究を進めてきたが、これまでの研究でHistoneH3K27me3を擾乱すると網膜progenitorからの発生時間軸が前倒しになる事を見出した。マウスとヒトの発生の時間軸は異なるが、網膜においても同様である。この時間軸は、網膜外からのシステミックな作用による制御ではなく網膜自身にそなわっていることが単離したマウス網膜の器官培養で示され、さらにヒトiPSの網膜分化誘導培養で示された。私たちはマウス、ヒトともにiPS細胞の樹立、分化培養に充分な経験を有している事を利用して、ヒト、マウスで異なる網膜プロジェニター分化の時間軸に着目し、網膜プロジェニターとその微少環境の関連がどのように網膜分化の発生時間軸を決定するのか、そこにHistoneH3K27me3がどのように関わるか、という課題に取り組む。

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A02 細胞と場の連携による制御

写真栄養バランスの変化に応じて発生タイミングを調整する適応能力の解明

上村 匡(京都大学大学院 生命科学研究科・教授)

幼若な動物は食餌から栄養を摂取して身体の容積を劇的に増やしつつ、成体へと段階的に成熟する。この成長過程の節目節目のタイミング(発生タイミング)は、ステロイドホルモンの生合成によって制御されており、その生合成は、個体の生育環境や体内環境、特に栄養状態の影響を受ける。しかし、そのメカニズムには不明な点が多い。本研究では、栄養バランスの変化への適応能力が大きく異なる近縁の種を材料として、マルチオミクスによる比較解析を行い、ステロイドホルモンを合成する組織に対して、食餌に由来する栄養バランスが細胞外環境の「場」としてどのように働きかけるかを解明する。

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写真神経回路構築におけるアクチン足場蛋白質の選択的スプライシングの時空間制御機構

生沼 泉(兵庫県立大学 生命理学研究科・教授)

アクチン細胞骨格の再構成は神経細胞の発達過程において重要な役割を果たしている。発達過程の大脳皮質内において、神経軸索は決められた時期に決められた場所で分枝形成することで、的確な神経回路を形成しており、分枝形成の制御は神経機能発揮に極めて重要である。軸索分枝形成のメカニズムの研究が盛んに行われ、アクチン細胞骨格依存的な軸索分枝形成を担う数々の因子が同定されている。しかしながら、神経発達期に時期・部位特異的に軸索分枝を形成するメカニズムの説明には至っていない。本研究では、「細胞をとりまく場」あるいは「細胞内」の変化によって駆動されるアクチン足場蛋白質の選択的スプライシングの時空間的制御を想定し、その機構の解明並びに可視化と操作を行うことを目的としている。

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写真Outer radial glia 誕生がもたらす神経幹細胞の場と時間特性の変化

川口 綾乃(名古屋大学大学院 医学系研究科・准教授)

ヒトなど複雑な大脳組織構造を持つ生物種では、脳の発生が進むにつれて脳室帯(VZ)よりも外側の領域 (SVZ)で未分化性を保ったまま分裂増殖する神経幹細胞が増加してくる。これらは脳室面で分裂する神経幹細胞Apical progenitor (AP)に対してOuter radial glia (oRG)と呼ばれる。マウスでも少数のoRGが存在している。oRG誕生の機構の詳細は不明であるが、脳室面に対し斜め・垂直な分裂をするAPの関与が推察されている。本研究では、発生の時間軸の中でどのようにしてoRG誕生のタイミングが制御され(図中Q1)、またAPの中でoRG誕生分裂を行うものが選択されるのか(図中Q2)を明らかとする。また併せてVZかSVZかという「場」の変化が神経幹細胞の時間的個性に与える影響を評価し、それらが結果として脳組織構築にどのように貢献しているのかを明らかとしたい。

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写真脳発生をコントロールする細胞環境としてのリゾフォスファチジン酸シグナルの役割解析

眞田 佳門(東京大学大学院 理学系研究科・准教授)

哺乳類の大脳新皮質の形成過程において、神経前駆細胞の細胞運命は発生時期に応じて巧妙に規定されており、神経前駆細胞は発生の進行に伴って自己複製や神経分化する。また、新たに誕生した神経細胞は、自らが置かれた領域に応じて、形態を様々に変化させながら最終目的地へと正確に移動する。これらイベントには、発生時計の『駆動部分』である細胞内プログラムと共に、発生時計の『竜頭』となりえる細胞外環境からのシグナルが重要な役割を果たす。しかし、神経前駆細胞の運命制御や神経細胞の形態変化・細胞移動に寄与する細胞外因子、特にGタンパク質共役型受容体を介したシグナルの役割は殆ど知られていない。本研究では、Gタンパク質共役型受容体と相互作用することが知られているリゾフォスファチジン酸に着目し、神経前駆細胞・移動中の神経細胞と細胞外環境とのインターフェースとして機能する分子基盤を明らかにする。

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写真YAPメカノホメオスターシスによるほ乳類脳の3次元構築メカニズムの解明

清木 誠(山口大学 医学系研究科・教授)

ヒトの眼球はカップ型をした眼杯の中心にレンズが正しく配置されることで物体を認識できる。しかし、さまざまな組織が独自の3次元の形を持ち、正しく配置するのを統御することで立体臓器を形成するメカニズムは想定されていなかった。私たちは、重力などの外力により臓器が扁平化するメダカ変異体hirameの解析から、原因遺伝子であるYAPが細胞の発生する物理的な力を介して、個々の組織の3次元化だけでなく、複数の組織の配置を制御して立体臓器を構築することを報告した (図1: Porazinski et al., Nature 521,2015)。外力によるYAPの活性化が、組織の物理特性制御を介して3次元臓器を構築するメカニズムをYAP-メカノホメオスターシスと名付けた。YAPによる組織の物理特性制御はネガティブフィードバックとしてYAPの臓器拡大機能を抑制すると考えられる (図2)。本研究では、ほ乳類脳の3次元構築とサイズの制御に果たすYAP-メカノホメオスターシスの役割を明らかにする。

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写真白質内オリゴデンドロサイトにみられるパターン形成とその起源

田中 達英(奈良県立医科大学 医学部・講師)

脳梁などの白質に存在するオリゴデンドロサイトは束間オリゴデンドロサイトと呼ばれる。この束間オリゴデンドロサイトの形態的特徴は、細胞体が一列に並んだ数珠状形態をとることである。脳構築過程において、オリゴデンドロサイトは神経軸索にミエリンを形成することで跳躍伝導を誘導し、インパルスの伝導速度を飛躍的に高めることが大きな機能であるが、束間オリゴデンドロサイトの数珠状形態に関する研究は少なく不明な点が多い。本研究では、自己構築の場を設定して自動する構成要素を供給する束間オリゴデンドロサイトパターン形成のトリガー遺伝子群を明らかにする。また、数珠状形態の時間的空間的な分子機序を明らかにすることで、束間オリゴデンドロサイトの規則的配列の意義を見出す。

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写真グリア細胞による神経幹細胞の増殖開始時期の調節

西村 隆史(理化学研究所多細胞システム形成研究センター・チームリーダー)

脳構築には、発生と発育の両過程において、神経幹細胞が適切なタイミングで適切な種類の神経細胞を産生し、神経回路網が形成されることが重要である。ショウジョウバエ神経幹細胞の増殖分化は、幹細胞自身が持つ内在的な仕組みとは別に、細胞非自律的な仕組みで分裂開始と停止時期が厳密に制御されている。特に、脳表層のグリア細胞は、血液脳関門を形成するだけではなく、体液中の栄養状態や種々の液性因子を認識し、発育段階に応じた神経幹細胞の増殖タイミングを制御する。しかしながら、栄養状態に応じた神経幹細胞の増殖開始を調節する非自律的な仕組みには、不明な点が残されている。本研究では、独自に見いだしたグリア細胞由来の分泌性因子SDRに着目し、脳発育における機能解析を行う。神経幹細胞とグリア細胞の連携を理解すると共に、栄養状態に応じた個体発育タイミングと脳発育の協調性について、遺伝学を用いて解析する。

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写真種特異的な「神経幹細胞の増殖期」の時計制御のしくみ

畠山 淳(熊本大学 発生医学研究所・助教)

ヒトはいかにして大きな脳を獲得したのか?大きな脳を形成するために、霊長類の神経幹細胞はマウスに比してより多く分裂し、長い期間を神経分化に費やさなくてはならない。実際に、大脳皮質においてニューロンを産生できる「神経幹細胞の増殖期」の長さは、マウスよりサルやヒトでは長く、神経幹細胞の増殖期の時計が種によって異なることを示す。神経発生の基本原理は、ほ乳類間でほぼ同じであるにも関わらず、神経幹細胞の増殖期の長さの違いがどうして生じるのか、脳サイズの種間差を作り出す機構は何なのか、ほとんどわかっていない。本研究では、種間の脳の大きさの違いを規定する「神経幹細胞の増殖期」の長さ制御の解明を目指し、外的要因である脳脊髄液の種間の違いに着目して研究を進める。究極は、霊長類の脳の拡大化機構の一端を解明することがねらいである。

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写真細胞外環境との連携による染色体高次構造の変動を介した脳発生の制御

藤田 幸(大阪大学大学院 医学系研究科・准教授)

大脳皮質における神経幹細胞分化の過程では、種々の遺伝子発現が連続的に変動し、神経細胞やグリア細胞が産み出されるタイミングを制御している。個々の遺伝子を構成する配列は、直線状のゲノムにコードされているが、それらが転写されて機能的に働くためには、ゲノムの立体的な構造変化を伴う発現制御の仕組みを理解する必要がある。しかし、脳発生期を通じてゲノムの立体構造がどのように変化し、適切な時間、適切な場所で必要な遺伝子の発現を制御しているかという仕組みはほとんど解明されていない。本研究ではクロマチンのループ構造を制御し、遺伝子転写を調節する染色体接着因子コヒーシンに着目して、この仕組みを明らかにする。神経細胞を取り巻く環境が、神経幹細胞のゲノム高次構造を制御し、ニューロンやグリア細胞の産生のタイミングを決定するメカニズムを同定する。

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写真ゼブラフィッシュ側線器官形成における細胞相互作用を利用した時間制御機構

別所 康全(奈良先端科学技術大学院大学・教授)

ゼブラフィッシュは体表面ある数十個の側線器官で水流を感知している。本研究では、体側に一直線にならぶ、5つの側線器官L1-L5をモデルとする。受精後22時間までに、耳胞の後方にこれらの側線器官の原基が形成される。側線器官原基は後方に集団移動し、一定の時間間隔で約30個ずつの細胞を分離することにより、十数時間でL1-L5が形成される。本研究では、側線器官原基が一定時間間隔で一部の細胞を分離するメカニズムを明らかにすることを目指す。それぞれの側線器官は頭部のガングリオンにある遠心性神経と求心性神経の支配を受け、これらの神経細胞は自発的に発火していることが知られている。本研究ではライブイメージングで側線器官原基の集団移動のダイナミックスを明らかにし、側線器官の細胞相互作用とそれを支配している神経の活動に着目して細胞分離を時間的に制御するメカニズムを明らかにする。

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写真GABA細胞発生時計による遺伝子「量」制御と皮質層との連携と構築

三好 悟一(東京女子医科大学・助教)

高次機能を司る大脳皮質は、情報伝達を担う「興奮性」ニューロンと局所情報をモジュレートする「抑制性」回路より成り立つ。抑制回路を形成するGABA細胞は発生期に皮質とはかけ離れた場所である大脳腹側で産生され、長距離移動により皮質に供給される。供給ルートが複雑であることや、未分化状態では多様なサブタイプの識別が困難であることもあいまって、GABAニューロンの発生、発達過程および分子制御機構の理解は遅れていた。ところが近年、マウス発生遺伝学的手法の開発により、抑制性GABAニューロンに内在する特殊な「発生時計」が明らかにされつつある。本研究ではGABA細胞「発生時計」による遺伝子「量」のダイナミックな発現制御に焦点をあてることで、GABA細胞と皮質層との連携による抑制回路形成機構の解明を目指す。

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A03 細胞と場の連携による制御

写真発生組織における時計の時空間動態: 分節時計再同期の数理モデリング

瓜生 耕一郎(金沢大学 理工研究域自然システム学系・助教)

発生では的確なタイミングで形態・器官形成が起きる。細胞集団が協調的に振舞うことで形態形成が起きるが、そのために各細胞は時間を計り(発生時計)、かつ細胞間相互作用により集団で時計を同期させると考えられる。分子生物学的手法の発展により、発生時計の実態や細胞間相互作用の分子機序が解明されつつある。一方、発生では細胞分裂や細胞移動、組織変形といった固有のプロセスがあり、それによって生じる「場」の変化が発生時計のロバストネスにどのような影響を及ぼすかはいまだ未解明である。本研究では、ゼブラフィッシュ体節形成における遺伝子発現リズム(分節時計)の細胞間再同期過程を三次元数理モデルと細胞レベルのイメージングデータによって解析し、発生プロセスが分節時計の時空間動態に及ぼす影響を明らかにする。

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写真発生過程をつかさどる階層縦断的な時間スケール制御機構の理論的解明

畠山 哲央(東京大学 総合文化研究科・助教)

発生のタイミングがいかに制御されているのかという問題は、脳を含む様々な器官の発生メカニズムの理解に重要である。この問いにアプローチするには、発生過程の時間スケールがどのように生化学反応によって決定されるのかを知らなければならない。しかし、生化学反応の時間スケールと発生過程の時間スケールには、場合によっては1万倍以上のギャップがある。そこで本研究では、この時間スケールのギャップがどのように解消されているかという点に注目し、発生タイミングの制御機構を理論的に解明することを主眼とする。近年の理論研究により、ミクロな生化学反応とマクロな生命現象の間の時間スケールのギャップの解消には『分子の階層性』が重要な役割を果たすこと明らかになってきた。しかし、過去の研究では多細胞レベルでのダイナミクスを取り扱っておらず、細胞間相互作用により細胞分化のタイミングを調整しあうような発生過程を十分に議論することができない。そこで本研究では、1分子—多分子(1細胞)という『分子の階層性』だけでなく、1細胞—多細胞という『細胞の階層性』を組み込んだ数理モデルを作成し、1分子—1細胞—多細胞という階層縦断的な発生過程の時間スケール制御機構を、理論的に解き明かすことを目的とする。

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写真発生時計を利用した神経細胞「誕生日」の意味づけ

平田 たつみ(国立遺伝学研究所 脳機能研究部門・教授)

神経細胞は分化したタイミング、すなわち「誕生日」によって異なる形質を持つ。本研究では、我々が開発した「神経細胞の誕生日タグづけ法」を用いて領域に貢献したい。これは発生時計のコア遺伝子を利用して、神経分化にコミットしたタイミングで遺伝子組換えを誘導するシステムである。神経細胞の「誕生日」の影響を様々なレベルで解析でき、当研究領域の目標によく合ったツールなので、多くの班員との共同研究につながるのではないかと期待している。我々自身はこのツールを用いて、二次嗅覚系と網膜視覚系に注目して研究を行う予定である。各々の系の利点を活かしつつ、「誕生日」の及ぼす細胞自律的な効果と、発生時間差が引き起こす間接的効果の分離を意識しつつ解析を進めたい。

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