logo
ホーム > 公募研究 > R元-2年度 公募研究

R元-2年度 公募研究


メンバー

A01 細胞内在的な時間制御機構

  • 荻沼 政之(群馬大学・生体調節研究所・助教)
  • 笹井 紀明(奈良先端科学技術大学院大学・准教授)
  • 佐藤 純(金沢大学・新学術創成研究機構・教授)
  • 島崎 琢也(慶應義塾大学・医学部・准教授)
  • 松尾 勲(大阪府立母子医療センター)
  • 松崎 文雄(理化学研究所・多細胞システム形成研究センター・チームリーダー)
  • 森 雅樹(滋賀医科大学・神経難病研究センター創薬研究部門・部門長)

A02 細胞と場の連携による制御


A03 実験技術開発


研究概要

A01 細胞内在的な時間制御機構

写真エネルギー代謝経路による分子時計周期長制御機構の解明

荻沼 政之(群馬大学 生体調節研究所 助教)

生物は遺伝子の発現振動が作る周期の長さを指標として、様々な生命活動の時間を正確に調節する。例えば、転写抑制遺伝子であるHairy遺伝子は、自身の遺伝子発現を抑制することで分子時計と呼ばれる発現振動を作り、この周期性を利用して胚発生の体節形成や神経分化のタイミングを制御する。分子時計の振動周期の長さを規定する分子基盤は胚発生の時間制御機構を理解する上で最も重要な課題であるが不明な点が多い。近年我々の研究から、体節形成過程においてエネルギー代謝経路が勾配を形成し、分子時計形成機構に寄与する事が示唆された。そこで本研究は、分子時計の周期長が異なるゼブラフッシュ胚(周期長30分)とターコイズキリフィッシュ胚(同3時間)に注目し、タイムラプスイメージング技術によってエネルギー代謝経路の代謝物と分子時計の両者を可視化・定量できるシステムを構築することで、エネルギー代謝経路による分子時計の周期長制御に関する分子基盤を明らかにする。

図

写真「種特異的な発生時計が制御する器官サイズとパターン保存性のメカニズムの解析

笹井 紀明(奈良先端科学技術大学院大学 准教授)

すべての生物はそれぞれ固有のサイズを有しており、その内部に存在する各器官もそのサイズに対応する。本研究の目的は、その制御因子を同定し、検証することである。ニワトリとウズラは進化上互いに近縁であり、ゲノム配列や遺伝子の発現パターンは極めてよく類似している一方で互いの個体・器官のサイズは著しく異なっている。したがって、両者のサイズを決定する要因は、ゲノムの大幅な再編に伴うものというよりは遺伝子の発現制御や発現量の違いよっている可能性が高い。この性質を利用し、遺伝子の発現量やダイナミクスの比較を行うことによって、サイズ決定、発生時間を制御する遺伝子を同定することを目指す。

図

写真特定の体節数で後肢形成が開始される機構の解明

佐藤 純(金沢大学 新学術創成研究機構 教授)

様々な動物の発生過程において、細胞の分化パターンはNotchシグナルによって時空間的に制御される。Notchシグナルは側方抑制によって分化細胞と未分化細胞がゴマシオ状に配置されたパターンを形成する。しかし、最近ではNotchの側方抑制は遙かに多様な働きを示すことが分かって来た。例えば、発生過程のハエの脳において見られる「分化の波」はNotchの側方抑制とEGFによる分化誘導を伴い、未分化な神経上皮細胞(NE)が一列ずつ神経幹細胞(NB)に規則正しく分化する。NotchのリガンドDeltaは、隣接する細胞においてNotchシグナルを活性化し(trans-activation)、その一方でDeltaを発現する細胞自身においてはNotchを不活性化する(cis-inhibition)。
Notchは分化の波の波面において1回活性化した後、波の後方においてもう1度活性化する。Deltaは波面において1度発現するだけであるが、このDeltaの発現が失われると2つ目のNotchの活性も失われる。1回目と2回目の活性化の間に、cis-inhibitionによってNotchの活性が急速に抑制されると考えられる。実際、数理モデル上ではcis-inhibitionに強い非線型性が含まれていれば2回のNotchの活性化をうまく説明できることが分かった。また、Deltaの産生量を減少させるとcis-inhibitionが起きなくなり、2つのNotchの活性ピークが1つに融合することが理論的にも実験的にも示された。
分化の波の後方では分化したNBが次々と多様な神経細胞を生み出すが、NBは時間とともにTemporal Factorと呼ばれる転写因子群の発現パターンを変化させ、これによって生み出される神経細胞の多様性を制御している。分化の波に伴う1つめのNotchの活性ピークは波の進行速度を制御するが、2つめのピークはTemporal Factorの発現タイミング、および神経多様性の時間変化を制御していると考えられる。Delta-Notch複合体の細胞内輸送に着目して、分化の波の波面において急速にcis-inhibitionを誘導する分子機構を解明する。

図

写真時系列特異的なニューロンサブタイプ分化を制御する転写因子群

島崎 琢也(慶應義塾大学 医学部 准教授)

中枢神経系(CNS)発生における神経幹細胞(NSC)の時系列特異的分化能変化の分子機構に関しては、これまで多くの研究がなされてきてはいるが、時系列特異的ニューロンサブタイプ分化制御に関しては未だ謎が多い。最近我々は、発生後期型のNSCsに発生初期型のニューロンサブタイプ分化能を付与する4種類の転写因子で構成される遺伝子セットを同定した。そこで本研究では、この転写因子のセットが、CNSの全ての領域において、発生後期型のNSCsに発生初期型ニューロンへの分化能を付与するのか、あるいは発生後期型ニューロンの初期型への分化転換を促すか検証し、さらにそれぞれの転写因子の、NSCsの時系列特異的なニューロンサブタイ分化能変化、あるいはニューロンサブタイプ維持における役割を明らかにする。

図

写真時間的に制御された未分化細胞の運命決定機構の解明

松尾 勲(大阪母子医療センター研究所 部長)

発生過程において出現する未分化な前駆細胞は、多能性が維持されつつも、ある特定のタイミングで分化する。更に、その細胞形態を細胞種に応じて変化させることで、形態形成・器官形成を進行させていく。本研究では、細胞の分化と形態変化のタイミングが、鍵となる転写因子の細胞内局在を変えることで制御されているのではないかという仮説を検証する。①[STAT3/Nanog経路を介した未分化細胞維持におけるBETの機能] 初期胚の未分化性維持にSTAT3によるNanog遺伝子の転写活性化が働いていることが知られているが、我々は、BETファミリータンパク質がSTAT3の核内移行と活性化に関与することを見いだしている。②[GRHL3による表皮細胞の分化と形態変化の制御機構]未分化な前駆細胞から表皮細胞への運命決定で、GRHL3が核内転写因子として働くとで表皮化が起こり、その後、細胞質へその局在を変えることで形態形成へのタイミングを制御することを見いだしている。そこで、これら転写因子の核・細胞質間での局在変化を解析することで、未分化細胞の細胞運命決定のタイミングがどのように調節されているのか解明する。

図

写真神経幹細胞の上皮構造再生能の経時変化メカニズムと複雑脳形成における役割

松崎 文雄(理化学研究所 多細胞システム形成研究センター チームリーダー)

脊椎度物の脳発生では、神経幹細胞の対称分裂による増殖を経て、非対称分裂によって順次異なる神経細胞が産生される。最近、我々は、これまでの常識を覆し、対称分裂期の神経幹細胞は高い上皮構造の再生能力を持ち、分裂方向のゆらぎ等による幹細胞の上皮性が壊されても上皮構築が再生することが、幹細胞帯(脳室帯)と脳構造形成の安定性を保証することをマウスの研究から発見した。興味深いことに、この上皮再生能は神経発生期には減衰してゆく。一方、霊長類などが進化の過程で成し遂げた大脳の飛躍的な複雑化・巨大化(複雑脳)には、脊椎動物に共通の幹細胞帯(脳室帯)から新たな神経幹細胞層(外幹細胞帯)が形成されることが決定的な役割を果たす。従って、今回新たに発見された幹細胞の上皮再生能の経時的減衰は、複雑脳の外幹細胞帯の形成には必須な特質のはずである。本研究では、(1)マウスを用いて、神経幹細胞の持つ上皮再生能とその経時変化のメカニズムを解明し、(2)フェレットをモデル系として、複雑能の幹細胞も対称分裂期には高い上皮再生能を持つことと、その経時的減衰が外幹細胞帯の形成に必須であるという仮説を検証する。

図

写真生命時間と場を連携する細胞内在性のスプライシング時計による脳サイズ制御

森 雅樹(滋賀医科大学 神経難病研究センター創薬研究部門 部門長)

成長に際して、脳のサイズが決まる機構は完全にはわかっていない。胎児期には、Hes遺伝子の発現振動など発生時計と呼ばれるしくみにより、臓器のフレームワークが作られる。しかし、脳の成長は胎児期だけでは完了しない。脳は生後も成長を続け、成人するまでに、重量で3.7倍増大する。成長とは同化と異化の差分なので、脳のサイズ機構の理解には、なぜ成長期には「同化」反応が高く保たれるのかを明らかにすることが重要である。私たちは、成長過程にあるマウスの脳で網羅的な遺伝子発現解析 (トランスクリプトーム解析) を行い、成長期に重要な遺伝子群として「若年性遺伝子 (juvenility-associated genes, JAGs)」を同定した (Jam et al., 2018)。その結果、多くの若年性遺伝子が同化反応に関わることが判明し、スプライシングによって変遷することがわかった。本研究では、時間依存性に進行するオルタナティブ・スプライシングの分子しかけをスプライシング時計として解明し、時間や外部環境に応じて成長が調節されるしくみの理解を目指す。

図

A02 細胞と場の連携による制御

写真アクチン足場の選択的スプライシングの時空間ダイナミクスが担う軸索誘導の新概念

生沼 泉(兵庫県立大学 生命理学 教授)

高次脳機能の発現には、神経細胞が生まれた後、神経細胞が周辺の場の様々な誘導(ガイダンス)因子に応答し、ダイナミックに突起の伸長・退縮および方向転換を繰り返しつつ的確な標的細胞とのシナプス形成をする必要があり、アクチン細胞骨格の再構成は神経細胞の発達過程において重要な役割を果たしている。しかしながら、神経発達期に時期・部位特異的に軸索分枝を形成するメカニズムの説明には至っていない。本研究では、特に特徴的で巧妙な投射経路を示す大脳皮質間神経回路(脳梁軸索)の構築のメカニズムに関し、「細胞をとりまく場」あるいは「細胞内」の変化によって駆動されるアクチン足場蛋白質の選択的スプライシングの時空間的制御を想定し、その機構の解明並びに可視化と操作を行うことを目的としている。

図

写真場の変化が明らかにする神経前駆細胞の時間個性獲得の機構

川口 綾乃(名古屋大学大学院 医学系研究科 准教授)

大脳発生の時刻進行に伴い、神経前駆細胞はその分裂パターンを増殖性の対称分裂からニューロン産生の非対称分裂へ、生じる娘ニューロンの個性を深層ニューロンから上層ニューロンへと変化させる。この発生時刻進行に伴う神経前駆細胞の個性の変化の背景には、個々の神経前駆細胞の遺伝子発現変化として捉えられる「細胞内的な時刻」の変化があると考えられる。一方、細胞周期を止めて周囲から孤立した状態で培養・維持された神経前駆細胞では、この細胞内的な時刻進行は完全には進まない(図)。このことは、細胞内的な時刻は細胞のおかれる環境である「場」によって調整されていることを示唆している。本課題研究では、「場」の人為的な操作などを介して、神経前駆細胞の「細胞内的な時計」と「場」との間で行われる協調的な制御の具体例を明らかとすることをめざす。

図

写真細胞と場の連携による着床前マウス胚の2段階細胞分化機構

佐々木 洋(大阪大学大学院 生命機能研究科 教授)

着床前のマウス胚の発生は、胚を構成する少数の細胞間の相互作用によって自律的に進行し、2段階の細胞分化を行い3種類の細胞からなる嚢胞状の胚盤胞をつくる。1回目の細胞分化では栄養外胚葉と内部細胞隗が作られ、2回目の細胞分化では内部細胞隗がさらにエピブラストと原始内胚葉へと分化する。我々はこれまでに、2段階の細胞分化はいずれもHippoシグナルによって制御されていること、さらに2つの細胞分化の間でHippoシグナルの制御と細胞のHippoシグナルへの応答性が変化することを明らかにしてきた。本研究では、Hippoシグナルの制御を変化させる1回目の細胞分化が作る新たな場の情報の実体を明らかにし、さらに1回目の細胞分化がHippoシグナル応答性を変化させる分子基盤を明らかにする。それらの知見を統合し、着床前胚という少数の細胞集団において、経時的に変化する場と細胞とが連携して自律的に2段階の細胞分化を行う仕組みを明らかにすることを目的とする。

図

写真大脳新皮質における神経前駆細胞の運命制御を司る脳外環境因子の役割解析

眞田 佳門(東京大学大学院 理学系研究科 准教授)

哺乳類の大脳新皮質の形成過程において、神経前駆細胞の細胞運命は発生時期に応じて巧妙に規定されており、神経前駆細胞は発生の進行に伴って自己複製や神経分化する。この運命制御には、発生時計の『駆動部分』である細胞内プログラムと共に、発生時計の『竜頭』となりえる細胞外環境からのシグナルが重要な役割を果たす。神経前駆細胞の運命を制御する細胞外因子のソースが多数知られるが、脳外ソース由来のシグナル分子の分子実体および作用機序に関する研究は充分とはいえない。本研究では、未だ謎の多い脳脊髄液由来のシグナルおよび母親からの血流を介したシグナルに着目し、大脳新皮質を取り囲む脳外環境と神経前駆細胞との相互作用を可能にする分子インターフェースの実体に迫る。

図

写真生後の脳を移動する新生ニューロンの発生時計を止める微小環境

澤本 和延(名古屋市立大学大学院 医学研究科 教授)

発生期の脳において、ニューロンの移動・成熟過程は、自身に備わった「発生時計」と「場」の連携に従って進行する。成体脳では、多くの脳領域で細胞構築が終了しているが、脳室下帯の神経幹細胞から産生された未熟な新生ニューロンは、アストロサイトが形成するトンネル(RMS)を通って、長距離を嗅球まで移動する。すなわち、RMSという「場」が新生ニューロンの「発生時計」を止め、未分化性を保って嗅球まで移動を維持させる可能性がある。本課題では、RMSにおいて細胞の長距離移動をサポートする分子メカニズムを研究する。

図

写真YAP-メカノホメオスターシスによる脳構築の場と発生時計連携メカニズムの解明

清木 誠(山口大学 医学系研究科 教授)

これまでに私たちは、既知のメカニズムでは説明のつかない表現型:臓器が扁平化し3次元構築に異常を示すメダカ変異体hirameの解析から、臓器の力学特性を制御する全く新しい3次元臓器構築のメカニズム (YAP-メカノホメオスターシス) を見出した。前公募研究において脳でのYAP-メカノホメオスターシス標的遺伝子としてARHGAP11Aの同定に至ったが、3次元の脳構築における場と発生時計へのYAP-ARHGAP11Aの役割についてはほとんど明らかになっていない。そこで本研究では、①ARHGAP11Aの細胞質移行を誘発する場のシグナル実体を同定し、②YAP-ARHGAP11Aが脳全体の立体構築・拡大に果たす役割を明らかにするとともに、③YAP-ARHGAP11Aによる細胞と場の相互作用が発生時計に与える影響を精査する。これによりYAP-メカノホメオスターシスによる脳の立体構築の場と発生時計の連携メカニズムに迫りたい。

図

写真体節形成における分節時計と空間情報の相互作用の解析

高田 慎治(自然科学研究機構 生命創成探究センター 教授)

動物の発生において、複雑な組織や器官の構造が秩序正しく構築されるためには、時間情報と空間情報の各々が厳密に制御されるだけではなく、両者の協調性が適切に保たれる必要がある。私たちは、体節形成において位置情報を作り出すFgf-ERKシグナルがripply遺伝子の発現制御を介して分節時計を制御することを明らかにしてきた。一方、ripplyが発現するよりも以前の段階においても、Fgf-ERKシグナルと分節時計は相互に制御されていることが示唆されたため、本研究ではこの協調的な相互作用が起きている作用点を明確にし、それを生み出す分子機構の解明を目指している。

図

写真腸の蠕動運動に潜む時計機能の成立メカニズム

高橋 淑子(京都大学大学院 理学研究科 教授)

腸神経系は「第2の脳」とも呼ばれ、複雑なネットワークを形成して多岐にわたる腸機能を制御する。中でも食べたものの消化吸収に欠かせない蠕動(ぜんどう)運動との関わりは深いと考えられている。蠕動運動とは、局所的に起こる腸の収縮が、その後「収縮の振動波」となって前後に伝播する現象であり、まさに「時計機能」を有した高次生体システムである。しかしその時計を支える細胞機能の実体はほとんどわかっていない。本研究では主にニワトリ胚をモデルとして、独自に開発したカイモグラフィー法を用いて蠕動運動を定量化し、蠕動運動の時計機能とその成立機構を明らかにしたい。腸内の領域特異的な蠕動運動が時空間的に制御されるしくみや、腸由来細胞によるオーガノイドを用いた振動波伝播機構の解明をめざす。腸蠕動運動の研究から、生命機能を支える新たな時計機能の発見に繋がることが期待される。

図

写真種特異的な「神経幹細胞の増殖期」の時計制御のしくみ

畠山 淳(熊本大学 発生医学研究所 助教)

ヒトはいかにして大きな脳を獲得したのか?大きな脳を形成するために、霊長類の神経幹細胞はマウスに比してより多く分裂し、長い期間を神経分化に費やさなくてはならない。実際に、大脳皮質においてニューロンを産生できる「神経幹細胞の増殖期」の長さは、マウスよりサルやヒトでは長く、神経幹細胞の増殖期の時計が種によって異なることを示す。神経発生の基本原理は、ほ乳類間でほぼ同じであるにも関わらず、神経幹細胞の増殖期の長さの違いがどうして生じるのか、脳サイズの種間差を作り出す機構は何なのか、ほとんどわかっていない。本研究では、種間の脳の大きさの違いを規定する「神経幹細胞の増殖期」の長さ制御の解明を目指し、外的要因である脳脊髄液の種間の違いに着目して研究を進める。究極は、霊長類の脳の拡大化機構を解明することがねらいである。

図

写真細胞外環境との連携による染色体高次構造の変動を介した脳発生の制御

藤田 幸(大阪大学大学院 医学系研究科 准教授)

大脳皮質における神経幹細胞分化の過程では、種々の遺伝子発現が連続的に変動し、神経細胞やグリア細胞が産み出されるタイミングを制御している。個々の遺伝子を構成する配列は、直線状のゲノムにコードされているが、それらが転写されて機能的に働くためには、ゲノムの立体的な構造変化を伴う発現制御の仕組みを理解する必要がある。しかし、脳発生期を通じてゲノムの立体構造がどのように変化し、適切な時間、適切な場所で必要な遺伝子の発現を制御しているかという仕組みはほとんど解明されていない。本研究ではクロマチンのループ構造を制御し、遺伝子転写を調節する染色体接着因子コヒーシンに着目して、この仕組みを明らかにする。神経細胞を取り巻く環境が、神経幹細胞のゲノム高次構造を制御し、ニューロンやグリア細胞の産生のタイミングを決定するメカニズムを同定する。

図

写真脳回路構築における軸索配線原理の解読

本田 直樹(京都大学 生命科学研究科 准教授)

発生過程において神経細胞は軸索を伸長し、脳組織に分布するガイダンス分子に誘導されながら軸索投射することで厳然とした神経回路が配線される。その際、軸索は複数の受容体分子を用いて、脳組織に分布する複数のガイダンス分子の「場」を認識し、それを道しるべにして伸長する。しかしながら、どのようにして軸索の目的地が受容体とガイダンス分子の組み合わせで規定されているのかは良く分かっていない状況である。そこで本研究では、神経コネクトーム等のデータから受容体とガイダンス分子との関係性を抽出するための数理的技術の開発を行う。そして、その技術を用いることで、神経回路を形成する軸索と「場」との相互作用の実体を同定し、未知の軸索投射ルールを明らかにする。

図

写真ゼブラフィッシュ側線器官形成における細胞相互作用を利用した時間制御機構

別所 康全(奈良先端科学技術大学院大学 教授)

ゼブラフィッシュは体表面ある数十個の側線器官で水流を感知している。本研究では、体側に一直線にならぶ、5つの側線器官L1-L5をモデルとする。受精後22時間までに、耳胞の後方にこれらの側線器官の原基が形成される。側線器官原基は後方に集団移動し、一定の時間間隔で約30個ずつの細胞を分離することにより、十数時間でL1-L5が形成される。本研究では、側線器官原基が一定時間間隔で一部の細胞を分離するメカニズムを明らかにすることを目指す。それぞれの側線器官は頭部のガングリオンにある遠心性神経と求心性神経の支配を受け、これらの神経細胞は自発的に発火していることが知られている。本研究ではライブイメージングで側線器官原基の集団移動のダイナミックスを明らかにし、側線器官の細胞相互作用とそれを支配している神経の活動に着目して細胞分離を時間的に制御するメカニズムを明らかにする。

図

写真脳構築におけるサブプレート層の機能解明

丸山 千秋(東京都医学総合研究所 神経回路形成プロジェクト プロジェクトリーダー)

大脳新皮質はインサイドアウトの6層構造を持つ。この極めて特異な脳構造の獲得により哺乳類は膨大数のニューロンを精緻に配置し、高度な情報処理能を持つヒト脳への進化を遂げた。胎児期という限られた発生時間内にこの精巧な構造ができるには、ニューロンの新生、移動、軸索投射による神経回路形成等の現象が同時、かつ互いに同調して進行する必要がある。しかしその総合的な制御メカニズムは未解明である。サブプレート(SP)ニューロンは大脳発生過程の最初期に誕生し、生後は消失するニューロンで、視床-皮質連絡を制御する他、最近その神経活動が新生ニューロンの移動モード変換のタイミングを制御することが明らかになった。本研究では、SPニューロンおよびそれを取り囲む豊富な細胞外基質からなるSP層の機能解析を通して、限定された時間軸の中で脳構築が正確に行われるメカニズムの解明を目指す。

図

写真皮質細胞の移動方向と連携した発生時計による分子制御機構の解明

三好 悟一(東京女子医科大学 講師)

哺乳類の大脳皮質回路は、神経伝達物質としてグルタミン酸を用いる興奮性ピラミダル細胞と、GABAによる抑制機能をもつインターニューロンより主に成り立つ。興奮と抑制という全く逆の役割を果たすピラミダル細胞とインターニューロンは、発生過程においても全く異なる場所でつくられたのち、皮質という「場」において集合することで特徴的な回路を形成する。その一方、この両者は共通して皮質層を貫く「放射状方向」と、皮質層と平行な「接線方向」の移動を組み合わせながら最終位置にたどりつく。本研究では起源も機能も異なるニューロン群がどのようにして移動のタイミングを皮質「場」において計るのか、また性質の異なる放射状と接線方向への移動様式は本質的にどのような分子機構により制御されているのかを解明するため、「発生時計」による遺伝子「量」のダイナミックな発現制御機構に着目する。

図

写真Nuclear lamina targeting is a timing mechanism for dendrite outgrowth

Adrian Moore(理化学研究所 脳科学総合研究センターチームリーダー)

• ニューロンは、樹状突起の分岐を介して接続し、適切な外部刺激を受け取ります。このニューロン樹状突起分岐パターンにより、ニューロン機能の機能が決定されます。ニューロン樹状突起分岐のプログラムが破壊することで、知的障害や精神神経疾患につながる可能性があります。一方、われわれは生体内において樹状突起の分化速度を制御する分子時計を有しています。本プロジェクトでは、高度なトランスクリプトミクス解析、クロマチンプロファイリング、細胞イメージングを用いて、ニューロン成長速度を制御する転写カスケードの時間軸を決定し、この時間軸がどのような外部栄養因子によリ制御されているかを調査します。

図

A03 細胞と場の連携による制御

写真ニューロンの四つの移動モードの数理・計算モデルの開発

今井 陽介(神戸大学大学院 工学研究科 教授)

大脳新皮質を構成する神経細胞(ニューロン)は脳深部で誕生し,より遅く生まれた細胞ほど脳表面近くの層を構成する.この現象は「inside-out」と呼ばれており,この形成過程においてニューロンは四つの移動モードを使い分けている.本研究課題では,興奮性ニューロンの四つの移動モードに対する数理モデルを開発し,大脳新皮質の形成過程を数値解析するための基盤技術を構築する.特に,reelin による細胞骨格分子,細胞接着分子の制御に着目し,その効果を細胞骨格分子の重合・脱重合速度の変化,あるいは細胞接着分子の結合・離脱速度の変化としてモデル化する.大規模な数値解析によって,これらのパラメータの変化とニューロンの形態・挙動の変化との関係を定量的に理解する.

図

写真組織変形のもとでの発生時計の同期過程

瓜生 耕一郎(金沢大学 理工研究域生命理工学系 助教)

発生過程において形態形成は的確なタイミングで起きる。発生タイミングの制御には精確な「タイマー」もしくは「時計」が必要になる。細胞内の遺伝子発現リズムは発生時計として働き、細胞は相互作用により集団でリズムを同期させ、協調的に振る舞う。一方、発生過程において、細胞分裂、細胞の形の変化や細胞配置の再編などによって、組織はそのサイズや形状をダイナミックに変えていく。多くの先行研究によって、細胞状態(遺伝子発現)の変化が形態形成を導くことが明らかになった。その一方、組織変形という場の変化が細胞集団の遺伝子発現パターンにどう影響するかについては依然として不明な点が多い。本研究では、ゼブラフィッシュ体節形成における遺伝子発現リズム(分節時計)の再同期過程を数理モデルにより解析し実験的に検証することで、組織変形が発生時計のロバストネスおよびレジリエンスに及ぼす影響の解明を目指す。

図

写真発生脳の数理モデリング:細胞分化・増殖の時間制御から空間構築への変換機構の解明

奥田 覚(金沢大学 ナノ生命科学研究所 准教授)

脳発生の過程では,複数種の神経幹細胞が層状に分布した三次元的な空間構造が形成される.近年,この空間構造の構築には,各細胞の分化・増殖タイミングの制御が重要であると分かってきた.これにより,脳の発生は,細胞の時間制御から組織の空間構築への変換過程であると捉えることが可能になってきた.そこで本研究では,神経幹細胞の層構造形成を対象として,分子レベルの細胞分化・増殖・運動から,組織レベルの多細胞の三次元動態までを包括的に記述する,マルチスケールな数理モデルを開発する.そして,開発した数理モデルをマウス大脳皮質の発生に適用し,実際の神経幹細胞の層構造形成を再現することにより,脳発生における細胞の時間制御から組織の空間構築への変換機構を解明する.

図

-->